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その働き方改革の「目的」は何かを問う――リクルートが追求する「働き方」の未来(後編)

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イノベーションは自由で多様なワークスタイルから起こる?――リクルートが追求する「働き方」の未来(前編)

反対していたベテランメンバーが「元の働き方には戻れない」

1カ月間の第1次FS(フィージビリティスタディ)実施後にアンケートを取ると、9割の従業員が「リモートワークは非常に良い」と回答した。満足度はきわめて高い。どんなところが良いか、具体的には「自分で働き方を選べる高揚感」「集中力が増し生産性が高まる」「通勤しなくてよいので体が楽」の3点が多かった、と林さんは話す。

「20数年この働き方を続けてきたので今さら変えられない、とリモートワークに大反対していたベテランのメンバーが、実際にやってみて1週間ほどしたら“もうあの頃の働き方には戻れない”と話していました」

一方で課題として出たのはICT環境。自宅にインターネット回線を引かず、スマートフォンのテザリングでネットに接続している若手社員も多く、Skypeでテレビ会議をしていると、しばしば中断する。印鑑を押す必要のある書類が一部残っているのもリモートワークを妨げた。自宅が狭かったりして仕事のできる環境ではない、という社員も一定の割合でいた。

「まずはやってみようという流れが重要」と働き方変革推進室室長の林宏昌さんは話す
「まずはやってみようという流れが重要」と働き方変革推進室室長の林宏昌さんは話す

だが、こうした課題は、ネットワーク環境を整えたり、規則を変えたり、サテライトオフィスを設けるなど、個別に対応していけば解決は難しくない。

本質的で重要な課題は「コミュニケーションのあり方」だ。リモートワークによるコミュニケーションの増減では「少し減った」と回答した従業員が多い。一方で注目すべきは「増えた」の回答も2割あったこと。なぜ増えたのか。

林さんによれば「チャットをうまく活用できている組織ではコミュニケーションがより円滑になった」という。「そばにいても、お互い何をしているのかわかっているかというと、そうでもない。リモートワークをすると、むしろタスクの見える化に向けた工夫をこらすようになり、メンバーの業務進捗度がよくわかるようになったというマネージャーもいます。逆にマネージャーがチャットにまじめな話題を投げこみ過ぎると、ポップな会話をしにくくなり、それならメールでもいいのでは? とみんなチャットから引き上げてしまう。使い方次第でチャットは有効なコミュニケーションツールになります」

「OKを出すルール」か、「NGを出すルール」か

2015年8月には「働き方ワールドカフェ」を開催、1人ひとりが自分の望ましい働き方と、オフィスのあるべき姿を考える機会を設けた。そこで出た要望を元にオフィスのレイアウトを変え、フリーアドレス制を導入。同じ部署の人とだけ顔を合わせるのではなく、多様な経験を交換しコラボレーションすることを目的とした施策だが、オフィスにいても集中し生産性が高まるように、話しかけてはいけない「クワイエット・エリア」も新たに設置した。

リクルートホールディングス内のオフィスでは、フリーアドレスが可能なエリアが多くあった
リクルートホールディングス内のオフィスでは、フリーアドレスが可能なエリアが多くあった

3回のFSを経て、ほぼ半数の社員がリモートワークを経験し、2016年1月からリクルートホールディングス、リクルートアドミニストレーション、リクルートマーケティングパートナーズで本格導入。週に何日を上限とするかなど、細かい規定は上長の裁量に任せた。

リモートワークの申請に対して「OKを出すルール」にするか、「NGを出すルール」にするかについては最後まで検討が重ねられた、と林さんは明かす。

「原則OKで特定の場合のみNGを出すのと、原則NGで申請があった場合のみOK を出すのとでは、根本的に考え方が違います。リモートワークは福利厚生の文脈や従業員満足度の向上に留まらず、仕事の生産性を高め、多様な経験が促されることでイノベーションにつながり、企業の競争力に資することもFSの結果によって推定できたので、『原則OK』で進めようという結論に達しました。したがって、仕事ぶりや業務内容などでマネージャーがリモートワークにふさわしくないと判断した場合だけNGを出すルールにしたわけです」

リクルートホールディングスでは、雇用形態に関わらず、すべての従業員に原則としてリモートワークが認められている。マネージャーに対しては、勤怠が乱れがちな社員への対処や、新人へのケアなど、FSでの成功事例を引きながらリモートワークを円滑に進められるようレクチャーした。全体のタスクの進行具合の把握や、個人の多様性に応じたコミュニケーションが求められるから、リモートワークの推進は、上長にとってもあらためてマネジメントスキルの要諦を試される機会となるのだろう。

働き方を変える「目的」とは

最初の目的であるリテンションと従業員満足度の向上は、ほぼ達成されたといってよい。情報共有だけのような無駄な会議が減り、デスクワークに集中できる時間が増えて生産性が高まったと、社員からもマネージャーからもアンケート回答があった。

「1人当たり売上高なのか、ミッションの達成率なのか、生産性向上の指標を検討しているところです」と林さんは次の段階への進展を見据える。

コーポレートメッセージ
フロア入り口にはコーポレートメッセージが構える

「通勤時間が削れた分、大学に通ったり、NPO活動に参加するなど、多様な経験を促す事例が出はじめています。この流れを加速させ、硬直的な働き方を見直すことで生産性が上がりイノベーションも生まれ、競争力の源泉になることの証明を早く提示したいですね」

夫婦共働きで双子の男の子を育てているリクルートマーケティングパートナーズの小野村学さんは、リモートワークのおかげで「生活者視点が身についた」と話す。保育園の送り迎えでママたちと世間話をする。スーパーの買い物で相場観を知る。そうしたなかから新規事業へのヒントをつかめるかもしれない、そんな手応えを感じているという。

自由な働き方で「他者とのコラボレーションがより緊密になる」と言うのは、リクルートホールディングスでCSRとダイバーシティを推進する菅原聡さん。

「社内の打ち合わせや仕事は場所を問わないので、放送局や国際NGO、県、他企業、アスリートやインターナショナルスクールなど、多岐に渡る人や組織と交流する機会が増えました。その結果、社内だけでなく、社会全体のダイバーシティ推進を共通のテーマに、協働がはじまったりもしています」

このように、リモートワークに象徴される、オフィスに縛りつけられない自由で多様な働き方は、確かにイノベーションへの道筋を開くかもしれない。

だが、それ以前の問題として、これから育児や介護と仕事を両立させなければならない人たちが増えていくなか、そもそも出社が必須のワークスタイルが持続可能な働き方なのかどうか、火を見るよりも明らかだ。場所と時間に制約されない働き方が普通になる。それが真っ当で自然な成り行きだろう。

イノベーションは自由で多様なワークスタイルから起こる?――リクルートが追求する「働き方」の未来(前編)

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